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2004年 08月 07日
作キムラタツヤ 写真GARY
気泡は海面に向って昇るに連れ次第に大きくなっていく。気泡はボールを半分に切ったような形をしている。上が丸で下が平。気泡はまるでシルバーの溶解した液体のようでもあり、プラチナの溶液のようでもあった。とても凛として涼しい感じがする。 気泡を好きというダイバーは多い。しかし清姫はちょっと違った楽しみ方を発見していた。それに気付いて以来、みんなには内緒にしていた。自分だけの秘密にしておきたかった。しかし五日目には内緒にすることに飽きた。 「ねえ、サト、ダイバーの吐く泡にね、自分が映るの見たことある?」 海に面したスフィンクス・ダイブセンターのカーペットとクッションが敷いてあるカフェスペースでバナナ・ハニー・パンケーキを口に運んでいたサトに向って清姫は唐突に尋ねた。 「えっ、なに?」 「ダイバーが吐く気泡があるでしょう?それが上に昇って行って段々大きくなる。その最大に大きくなったところを水面で見たことある?」 「あるよ」 「その時見えたでしょう!気泡を覗いてる自分が。あの熔けたプラチナのような銀色に揺れる泡の表面に」 「そんなの見える?」 「見えるのよ、自分と青空がそれに映り込んでいるの。私の手前一メールからあっという間にこっちに昇ってきて、自分が映りこんだ一瞬、マスクにぶつかって消えてなくなるの」 「今度見てみる」 「ねえサト、そこに映る世界って、現実の世界だと思う?幻だと思う?」 「現実」 「わたしも現実だと思う。そこに映ったものはそこに存在する。鏡に映った自分も私は私とは別のそこにある現実、確かな存在だと思っている」 「ねえキヨ、あの泡って何かに似てると思わない?あの半球の形が。あれね、今わかったけど、あれは私の胸よ。小ぶりだけど張りのある横になっても形が崩れないぷりりんとした胸!」 「なにそれ」 「似てると思わない?キヨの胸はそんな球面がない?」 舌を出して笑うサトは笑った。その後ろに自転車で通り過ぎていくマサシの姿を清姫は見つけた。 「マサシ!」 声は届かなかったのか、マサシの姿は町の南の方へ、珊瑚の森とも呼ばれるダイブサイト・アイランズの方に向かって次第に小さくなっていった。 面白ければ、こちらをクリックして下さい→人気blogランキング
by reft229
| 2004-08-07 15:02
| ダハブ物語
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