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2004年 08月 08日
作 キムラタツヤ 写真 GARY
清姫とマサシが初めて会ったのは、スフィンクスダイブセンターにあるベドウィンスタイルの、地面にカラフルなカーペットとクッションを置いたカフェだった。 その時、清姫はダイブマスターとしてその日ガイドした二人のイギリス人にログブックに記録する潜航開始時間やボトムタイム、海の状態、水温などを伝えていた。そこにダイビングのライセンスを取りたいとサトを尋ねてきたマサシがやってきた。 マサシは黒く丸っぽい淵の大きいサングラスを掛け、白いメッシュのハンティング帽をかぶっていた。緑地のランニングシャツには白い文字でBeerlaoとプリントされてあった。 「すいません、サトさんいますか?」声にはどことなく遠慮があった。 「今ダイビングに行ってます」清姫は顔だけを向けて答えた。 「どのくらいで帰ってきますか?」 「一時間位かな」 「ここで待ってていいですか?」 「どうぞ」 清姫はマサシが座り、荷物を降ろすのを見とどけると、顔を戻しログ付けの続きを行った。 マサシは文庫本を取り出し、足を伸ばし身体をやや横にした後、本を読み始めた。 それから二十分後、二人の客もダイブセンターを後にし、手が空いた清姫はマサシが本を読んでいる傍までいき、マサシの横に座り本の中を覗いた。それでも本から目を離さないマサシに清姫は話しかけた。 「ごめんね、またせちゃって。何読んでるの?」 マサシは何も答えず、本を太ももの上に置き、サングラス越しに清姫を見た。 「『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』、なんだか難しそう」清姫は日に焼けた背中に手を回し掻きながら言った。 「ちょっと背中になにかできていない?」 そう言いながら清姫は横を向き、マサシに背中を向けた。 「なにか赤くなっていない?」 マサシは背中を見た。そしてサングラスをはずしもう一度よく見た。 「赤いのができてるよ」 何かに刺されたような赤い斑点がいくつかあった。カフェの板組みの屋根から漏れる太陽の陽射しが一筋、清姫の背中に落ちていた。 マサシは暫く背中を見ていたが、またサングラスを掛け横になりながら小さな声で言った。 「ほくろがたくさんある」 清姫は急に恥ずかしくなり、向けていた背中を元に戻した。 その日の夜、宿の共同シャワー場で、清姫は石鹸の付いた身体を手のひらで丁寧に洗いながら、「背中のほくろの数を数えさせてくれ」とロドがしつこく頼んだ日のことを思い出していた。 面白ければ、こちらをクリックして下さい→人気blogランキング
by reft229
| 2004-08-08 18:03
| ダハブ物語
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